採用と組織開発がつながっていない会社で、採用が弱くなる理由
採用しても定着しない、入社後にギャップが起きる。そうした課題の背景には、採用で語る言葉と組織の中にある実感のずれがあります。採用と組織開発を別々に考えず、合う人に届く文脈をどうつなぎ直すかを整理します。
採用がうまくいかないとき、多くの会社はまず採用活動そのものを見直します。求人票の表現を整え、採用ページをつくり直し、面接の精度を上げる。スカウト文面の改善に力を入れる会社もあるでしょう。そうした見直しは当然必要です。けれど、そこに手を入れてもなお手応えが変わらない会社があります。応募は来るのに、合う人と出会えている感じがしない。選考では共感されているはずなのに、入社後に少しずつずれが生まれる。そうした感覚に心当たりがある会社は少なくありません。
その一方で、組織の中には別の悩みが横たわっています。部門同士の連携が噛み合わず、上司によって期待の伝え方にも差がある。現場では支え合いが起きているのに、それが会社全体の言葉として整理されていない。こうした問題は、ふつうは組織開発の論点として扱われます。採用とは別のテーマとして切り分けられることが多いはずです。
ただ、本当にそうでしょうか。採用でうまく届かない言葉と、組織の中で共有されきれていない実感は、別々の問題ではなく、同じ断絶の表れであることがあります。採用では「挑戦できる環境」と語っているのに、入社後には期待のされ方や支え方の輪郭が見えにくい。反対に、現場にはたしかによい関わり方や判断基準があるのに、それが採用の言葉には変わっていない。こうした状態は、採用だけを見ても、組織開発だけを見ても、うまく説明しきれません。
見落とされやすいのは、採用が扱っているのは入口の言葉であり、組織開発が扱っているのは入社後の実感だということです。そして、その二つは本来、ひとつづきの文脈であるはずです。入口で語られたことと、入社後に触れる実感のあいだで文脈が切れていると、採用では共感されても定着しにくくなりますし、組織の中にあるよさも外には届きにくくなります。
採用と組織開発が切れやすいのは、担当や役割が分かれているからだけではありません。採用は入口の成果として、組織開発は入社後の状態として、別の時間軸と評価軸で扱われやすいことも大きいです。だからこそ必要なのは、一方をもう一方に近づけることではなく、そのあいだで切れている文脈を見つけ、つなぎ直すことです。
私たちは、こうした採用のあり方をナラティブ採用と捉えています。制度や条件を並べるのではなく、組織の中にある働く意味や現場の実感を掘り起こし、合う人に届く文脈へ変えていく考え方です。この視点に立つと、採用と組織開発を別物として扱いすぎない方がよい理由が見えてきます。
採用で語る言葉は、組織の中にある実感からしか立ち上がらない
採用広報では、理念やビジョン、求める人物像、カルチャー、制度の特徴などが語られます。そうした要素は欠かせません。けれど、その言葉に実感が伴っていなければ、候補者にとっては判断材料になりにくくなります。
たとえば、「挑戦を歓迎する会社です」と書かれていても、実際には失敗を許容する関わり方がなければ、その言葉は表面的に見えます。「人を大切にする会社です」と語っていても、忙しい時期ほど対話が減るような組織であれば、その言葉は現場の実感とつながりません。
ここで大事なのは、採用の言葉は人事や広報の中だけでつくられるものではないということです。本当に届く言葉は、組織の中でどんな支え方があり、どんな任せ方があり、どんな判断基準が共有されているかという実感からしか立ち上がりません。
採用の言葉を整えることは、表現をきれいにすることではなく、組織の中にある実感の輪郭を見つけることでもあります。採用で何を言うかを考えることは、組織の中で何が意味を持っているのかを見直すことでもあるのです。
組織開発で整えたいことは、入社後だけでなく採用の質にも影響している
組織開発というと、1on1、評価制度、マネジメント研修、理念浸透、関係性改善など、入社後の組織運営に関わる取り組みとして語られがちです。いずれも重要ですし、そこを疎かにしてよいはずがありません。けれど、こうした取り組みは入社後だけに効くものではありません。
なぜなら、組織開発で整えようとしているものは、採用の段階でもすでに問われているからです。
役割の期待値が曖昧な組織では、入社後にずれが起きやすいだけでなく、採用時点でも「どんな仕事なのか」がうまく伝わりません。上司との対話の質にばらつきがある組織では、定着に課題が出やすいだけでなく、「この会社ではどんな支え方があるのか」も言語化しにくくなります。
つまり、採用で起きている問題のいくつかは、採用広報の見せ方だけではなく、組織の中でまだ整い切っていないものの表れでもあります。逆に言えば、組織開発によって関係性や判断基準の輪郭が整ってくると、採用で届けられる言葉の質も変わってきます。
採用を強くしたいなら、外向きの表現だけでなく、組織の中で何が支えになっているのかを見にいく必要があります。組織開発を進めたいなら、内側だけでなく、その変化が誰にどう届く言葉へ変わるのかまで見ておきたいところです。
「合う人を採りたい」は、組織の中にある文脈が見えていないと成立しにくい
多くの会社が、「スキルだけでなく、合う人を採りたい」と考えています。方向性としては自然です。けれど、この「合う」が曖昧なままだと、採用でも組織でも判断がぶれやすくなります。
合う人とは、単に感じのよい人ではありません。その組織の中にある仕事の進め方、期待のされ方、支え方、意思決定のしかたの中で、意味を見つけやすい人です。
ここで必要になるのは、組織の中にどんな文脈が流れているのかを見つけることです。どんな場面で、この会社らしさが立ち上がるのか。どんな人が、この環境で力を発揮しやすいのか。逆に、どこでずれが起きやすいのか。
これらは採用の問いであると同時に、組織開発の問いでもあります。なぜなら、それは組織の中で何が共有され、何が支えられ、何が期待されているかを見ていくことだからです。
「合う人を採りたい」という言葉を本当に機能させたいなら、まず組織の中にある意味の輪郭を見つける必要があります。そこが見えてはじめて、誰に、何を、どのように届けるかが定まってきます。
採用だけを見直しても変わらない会社では、入社後の実感に目を向ける必要がある
採用に課題があると、多くの会社は採用サイト、求人票、面接フロー、スカウト文面といった入口側を見直します。それ自体は必要です。けれど、それでも変わらない会社があります。
そうした会社では、入口の見せ方より前に、入社後の実感にどんな言葉があるのかを見直した方がよいことがあります。
しんどい時期があっても、なぜ残ろうと思えたのか。入社前の期待と違うことがあっても、なぜ関係を切らずにいられたのか。どんな支え方や任せ方が、この会社らしさとして残っているのか。そうした語りの中に、採用で本当に届けるべき言葉があります。
採用だけを見直すと、どうしても「どう伝えるか」に意識が向きます。しかし、組織開発の視点を重ねると、「そもそも何がこの会社らしさとして立ち上がっているのか」を見直せるようになります。ここが変わると、採用で届く言葉も変わってきます。
採用メッセージの改善とは、言い回しを変えることだけではありません。組織の中にある実感を、候補者が判断できる文脈へ翻訳し直すことでもあります。
組織開発だけを進めても、外に届く言葉には変わらないことがある
逆に、組織開発に取り組んでいても、その変化が採用に生きていない会社もあります。
現場の関係性は少しずつよくなり、対話の機会も増え、マネジメントの関わり方にも変化がある。にもかかわらず、採用では昔のままの言葉が使われていたり、抽象的な魅力訴求に留まっていたりすることがあります。
これは、組織の中に変化が起きていないのではなく、その変化が外に届く文脈へ翻訳されていない状態です。
組織開発は、内側だけで完結するものではありません。組織の中で起きている変化を、どんな言葉で意味づけて外に届けるかまで含めて考えると、採用とつながりやすくなります。組織の中にある実感を外に出す翻訳機能がないと、せっかく整ってきたことも採用では見えにくいままになります。
組織の中にあるよさは、あるだけでは届きません。届くかたちに変わってはじめて、接点になります。
採用課題を入り口にしたとき、組織の見え方が変わりはじめた
ある企業では、採用広報を見直しても、なかなか手応えが出ませんでした。求人票や採用ページは整っている。社員インタビューもある。選考フローにも大きな問題はない。それでも、応募の質や入社後の定着にばらつきがありました。
話を聞いていくと、採用メッセージそのものが弱いというより、組織の中でどんな働き方や支え方が実際に起きているのかが、十分に言葉になっていないことが見えてきました。
現場のメンバーに、「しんどい時期に何が支えになったのか」「この会社らしいと感じるのはどんな場面か」「働き続ける理由はどこで立ち上がるのか」を聞いていくと、表向きに使っていた言葉の内側にある実感が見えてきました。たとえば、裁量があるというより、任せたあとに対話があること。チームワークがよいというより、忙しいときほど相談が途切れにくいこと。顧客起点というより、目の前の要望だけでなく背景まで見ようとする姿勢が共有されていること。そうした具体が見えてくると、採用の言葉も少しずつ変わっていきました。
以前は「裁量がある」「チームワークがよい」といった言葉で会話がまとまりやすかったのに対し、見直し後は、「任せたあとにどんな対話があるのか」「忙しいときに相談がどうつながるのか」「顧客に向き合うとき、どこまで背景を見ることが期待されているのか」といった、その会社らしい支え方や期待のされ方を前提にした対話が増えていきました。
変わったのは採用の言葉だけではありませんでした。言葉を見直していく中で、「任せたあとにどこまで対話ができているか」「忙しい時期に相談が本当に途切れていないか」といった、現場の関わり方そのものを見直す視点も生まれていきました。採用のために言葉を整えていたはずが、結果的には、組織の中で何が支えになっているのか、どの関わり方が意味を持っているのかが見えてきたのです。採用課題を入り口にしながら、組織開発の視点が立ち上がっていった例と言えます。
採用と組織開発をつなぐには、現場の語りを行き来させる必要がある
採用と組織開発をつなぐうえで重要なのは、現場の語りを入口と入社後のあいだで行き来させることです。
どんな人が、なぜ残っているのか。どんなときに、この会社らしさが立ち上がるのか。どんな支え方が、働く意味につながっているのか。そうした現場の実感は、組織開発のヒントであると同時に、採用で届けるべき言葉の源泉でもあります。
採用では、その語りを外に届く文脈へ変える必要があります。組織開発では、その語りが本当に今の組織でも立ち上がっているのかを確かめ、必要なら整え直す必要があります。
この往復があると、採用と組織開発は別々の施策ではなくなります。入口の言葉と入社後の実感が、少しずつつながっていきます。
ここで必要なのは、部門や機能をまたいで語りを翻訳できる状態です。言い換えれば、採用のための言葉と、組織の中で生きている実感を、同じ文脈の中で扱える状態です。
採用と組織開発は、分けない方がよいというより、つなぎ直した方がよい
採用と組織開発を完全に同じものとして扱う必要はありません。実務の役割も、施策の方法も違います。けれど、別物として切り離しすぎると、入口で語る言葉と入社後の実感がずれていきやすくなります。
だから大事なのは、分けないことそのものではなく、つなぎ直すことです。
採用で届ける言葉が、組織の中の実感とつながっているか。組織開発で整えようとしていることが、採用の言葉に反映されているか。その往復があると、合う人に届く接点が生まれやすくなりますし、入社後にも意味が続きやすくなります。
実際に、採用課題と組織課題を行き来しながら現場の声を掘り起こしていくと、入口で届けるべき言葉は、制度の説明よりも、組織の中で意味が立ち上がる場面の中にあることが見えてくることがあります。採用と組織開発は、どちらか一方だけを整えればよいものではありません。あいだの文脈をつなぎ直してはじめて、組織の中にあるよさは、合う人との接点へ変わっていきます。

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マーケティング・ファシリテーター
株式会社トランジットデザイン代表。 マーケティング伴走、採用・組織のストーリー設計、コンテンツ企画・制作を通じて、企業や地域、組織の見えにくい価値を言語化し、伝わるかたちへ整えることを仕事にしている。事業や組織の背景にある文脈を読み解き、営業・採用・発信などの接点をつなぎながら、実行につながる構造をつくることを得意としている。
まずは、現状を整理するところから。
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